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やけに部屋がガランとしている。 そんなに、荷物はあったのか。
玄関のそばに、大きなダンボール一箱と、 スーツケースが1つ分。 もう、全部と思っても、後から、後から、 あれも、これも、出てくる。
「帰ってきてよ」
声にならない声で泣き叫んだ。 あんな泣き方をしたのは、きっと、初めてかもしれない。
けれど、まだ仕事は残っていた。 長年使ったキーケース。 もう、かれこれ6年以上使っている。 毎日、中を見なくてすむように 自宅のキーと会社の袖机のキーだけ外に出していた。 キーケースを開く。 真新しい鍵が1つ、 「最近、僕使わないね」 っていった。 一思いにキーケースから外して、 真っ白の封筒に入れた。 封筒には、それだけを、入れた。
部屋を、もう1度見渡す。 どこを見ても、彼のセンスだ。 唯一、六畳一間に似つかわしくない37型のプラズマテレビだけが、 自分を主張していた。
一緒にご飯を食べるために用意したちゃぶ台に、 二人分の食事が並べられることも、もうない。 電子レンジの下にある衣装棚の中身は、 玄関先にあるダンボールの中にすっぽりと入ってしまった。
終わったんだ。 私はしばらくぶりに、穏やかな心境になる。 あとやることは1つ。
「簡単やで。電話1本やで。『すんませーん、ちょっと荷物取りに来て』。 ヤマトさんとこ電話や」 同僚の声が、脳裏に蘇る。 私は静かに電話を手に取った。
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すごい、揺れてる。 地震かと思ったら、自分が揺れてた。
1週間。 とにかく生きることが精一杯だった1週間。
目が、開かない。 うまく、笑えない。
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