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country road
「ぐい呑みを30、群馬へ送ってもらいたいんです」
「は?」
「あの、籠に入ってるやつですね。
ちょっと青磁がかった中が梅模様のと、四隅がちょっとためてる緑のやつとね、
あとは東京からですよって、お任せしますわ」

「……もしかして、有紀さんとちゃいますの?」
「そうです。えらいご無沙汰してもうて。先生はお元気でいらしゃいます?」
「いややわー。最初に名乗ってくれたらよろしのに」
「えらいご無沙汰してしまいましたよってに。
電話の声だけやったらより分からんと思ったんですけれどもね。
てっきりもう忘れはってるやろうと思いまして」
「忘れるわけないやないの、いややわもうー」
「すみません。宇治には帰らな帰らな思てるんですけどね、
やっぱり東京と京都は遠いですわ」
「そうやんね。ちょっと、お父さん呼びますよって、ちょっと待ってね。
お父さん、お父さん、東京の有紀さんから電話! ほら、しだれ桜のお嬢さん!」

雷のような足音がして、受話器を奪い取る音がした。

「元気でっか」
真の職人は、そこに座するだけで威圧感とひれ伏したくなる何かがあって、
先生もそのひとりである。
いまはもう数少ないある焼き物の窯元だ。
「先生、えらいお元気そうで」
「わしはええねん。あんたは元気でっか」
「えぇ、おかげさまで」
「相変わらず嘘が下手なやっちゃのー。
出世できへんやろ」

ガハハハハハとそれだけいうと、
「それ」
と一言いって受話器を妻に戻した。

「ごめんなさいね。ほんとにあの人はもう照れ屋だから」
「いえいえ。先生もお元気そうで何よりです」
「それで、群馬にぐい呑みを30ですねぇ。
お好みは有紀さんのお好みにします?」
「10は私の好みで。残りは適当に混ぜてください」
「分かりました。明日には着くように手配させてもらいますわ」
「毎度すみません。お支払はこちらでさせていただきますよってに」
「ほしたらまた、仕訳はそちらへ送らせていただきますねぇ。
それにしても、この1年ちょっとで、えらい成長されはりましたなぁ。
お声でね、わかりますよ。忙しいやろうけど、たまには顔出してな」
「ありがとうございます。できたら来週、いっぺん帰りたいとは思てます。
先生にお願いもしたいことがありますし」
「割れたんですか?」
「えぇ。しだれ桜が、割れました」
「えらいよろしいわ。金次の旨、伝えときます」

もう何年前かも忘れたが、2つ目に買った抹茶茶わんは、
しだれ桜の絵柄だった。
交通費だけで精いっぱいだった私は、その場でお金を払うことができず、
つけてもらったのだが、なかなか送金できないでいた。

先生にお詫びのご連絡をすると、
「払いたいときに払ってくれたらよろし。
信用商売ですよってに、こちらは安心して待ってますよって」

これ以降、こちらの窯元とは電話1本で全国どこでも
商品先出しで取引させていただいている。

「金次されて、また味のある茶わんになりますやろうな。
派手に割れましたん?」
「えぇ、それは派手に」
「深い傷は、後に大きな糧になるやろうからね。
傷を抱えて帰ってらっしゃいね」

1年ぶりの会話は、とても温かかった。
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[2008/09/24 10:13 ] | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0)
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