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前世の記憶
メモ 第一稿

「さおり、いい人生だったね」
最後に聞いたことばは、愛する人のことばだった。
97 歳、満面の笑みで愛する人に抱かれながら、
最も愛する自宅で息を引き取った。

晩年、自身がもっともお気に入りの2 階のベランダに置いてある
デッキチェアに横たわり、子どもたちの声を聞きながら、逝った。
初夏の風が、肌に心地よく、高台に建つ我が家の大きなベランダからは街が一望できた。
かつては「町」まで行くのに山を下りて半日がかりだったが、
いまとなっては町まで舗装された道もでき、車で30 分もかからない。

その家は現存し、ヒノキの屋台骨は昔から変わらない。
私はいまも、かつて自分が愛した人と暮らした、
愛する家を、探している。
2 年に1 度見る、映画のような夢。
今回は、自分の前世の記憶だった。



子どものころから、私は喉にポリープがあって、
当時はそれが「癌」とされていた。
幸い、陰性のものだったが、当時の医療レベルでは、
それが判断できなかったのだ。
しかも、風邪をひくたびに腫れあがり、医者は、
この子はいつ死んでもおかしくないといっていた。

両親は、みなしごだった私を含め、8 人の子どもを引き取った。
決して裕福ではなく、町で過ごすだけの財力がない私たち一家は
山を切り崩したようなところに小屋を建て、そこで家族10 人が暮らしていた。
1 番上の兄と姉は私が10 歳のころ、癌で他界した。
次は私といわれていたが、次に他界したのは何番目か分からない、
幼い女の子だった。
女の子は、姉と私、その子の3 人だけだったから、
私は男の中に混じって育っていった。
中でも、2 番目の兄はいつも私のそばにいた。
成長とともに、それが愛情へと変わり、でも、血が繋がっていない事実を知る前に、
育ての親が他界した。

事実上、一家の長となった兄は、これほど好き合っているのに手を伸ばせない
私のそばにいるのが苦しかったのと、
私を含め、まだ幼い男児3 人を養うために、町へ出稼ぎに行った。

しかし、私が20 歳を迎えたころ、再びポリープの腫れが悪化、
高熱に何日もうなされ、危篤の知らせを聞いた兄は、家に帰ってきた。

それからしばらくして、私の状態は落ち着く。
私は兄と離れることはもうできず、それは兄も同じだった。

日本が戦争に負けたことを知ったのは、敗戦から1 カ月が経ったころだったか。
ラジオもなく、町にも出なかった私たちは、完全に陸の孤島だった。
私は、うれしくて泣いた。
もう、これで兄に赤紙が来るのではないか、という脅えはなくなったのだ。
兄は、何度も私を抱きしめた。

それから後、私は相変わらず自分を「癌」だと思っており、
山の中での闘病生活を手記にまとめた。
兄がそれを見つけ、出版社へ持っていくと、その原稿は即採用になった。
そうして、月刊誌のコラム欄に掲載されるようになり、
いつしか私は「先生」と呼ばれるようになった。
山を下りて町へ行くのに、半日もかかったけもの道は、
大きくきれいな道に舗装された。
眼下に見下ろせた町は、高度経済成長期とともに、
たくさんの高いビルが立ち並ぶ「街」へ変貌する。
何かの検診の折、自分が癌ではなかったことを知り、
後に編集者や兄たちと大笑いをした記憶もある。
その後、私は執筆活動を続け、兄はその私を支え続けた。

そうしていくつもの年月が、川の水のごとく流れる。
それでも、その川を決して渡ることが許されないふたりは、
家を改築し、たくさんの養子を引き取った。
家の中は、子どもたちの笑い声で溢れ、至極穏やかな生活だったと記憶している。
私は、97 になった。
兄ももう、いつ迎えが来てもおかしくない99 歳。
もしもふたりが血が繋がっていないという事実にもっと早く気がつけたのなら、
私たちは、もっと違った人生を送っていたかもしれない。
もしかしたら、兄は途中で気が付いていたのかもしれない。
けれど、もう私たちは戻ることができないところまで、流れついていたのかも、しれない。

兄は、いつも私のそばにいてくれた。
私は、いつも山の中の家で、筆を執っていた。
しあわせな、人生だった。
私はあの死に顔を忘れない。
ぷくっと膨れた私のほっぺたには、たくさんのしあわせが詰まっていたし、
皺だらけの手、でもその皺の数だけ幸せが刻み込まれていた。

必ずまたね、兄と会える日が来るからね。
その時はふたり、今度は恋をして夫婦になれるんだよ。
確か兄の名は、「タツヤ」といった。


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[2009/01/25 08:16 ] | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0)
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