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アリサ
「幸せってなんだろかー。」
と呂律回らず私に問いかける。
アネキとの電話の時に一気に記憶が遡る。

今朝、玄関を開けると、そこには幼い女の子が蹲っていた。
否、正確には倒れこんでいた。
その子は明らかに私の知人の子で、
名はアリサと言う。
よく通っていた飲み屋の常連の娘だ。
父親はまだ若く、今年28だったと思う。
酒癖が悪くどうしようもない人で、
父親の両親がアリサの面倒を看ていたが、
ひどい暴力を振るっていたと思う。
仲良くなった私の元に駆け込んで来、
私を母親のように慕っていた。
なんとかして父親とくっつけたがった。

ある日、私の家に逃げ込み、
「ほら、ばんざいしてご覧。」
と言って服を脱がせると、体中痣だらけだったが、
誰がやったのかは決して言わなかった。
この子にとっての幸せが何かわからないが、
店の常連客と相談し、児童相談所へ常連客が連れて行くことになった。
それから私は、その親子と会うこともなくなり、
今後も会うことはないはずだった。


逃げてきたのか?
それとも何かを伝えに来たのか。
何時から居たのかもわからないが、
肺炎を起こしかけるほどひどい状況だった。
すぐに児童相談所に連れて行ってくれた常連を呼び、
その人が再びアリサをどこかへ連れて行った。

夜中からずっと居たのだろう。
彼女の身体は氷のように硬くなっていて、
何時間も待った挙句、ようやく言えた一言は、


「ママ」



常連客は、二度と来させないようにするから、
安心してほしいと言ったが、そんなことはどうでもよかった。
それよりもただ、あの時、児童相談所に連れて行ったほうが良いと
言ったあの私の一言が、彼女の幸せを奪ったのではないかと考えてしまう。
アリサはきっとずっと、児童相談所に連れて行く寸前まで
誰かに暴力を振るわれていた。
それでも、飛び出してきたのは1回だけで、
今回はそれ以上にひどい状況だった。
それを考えると、ひどい話しだが、見てみぬ振りをして
親元に置いておいたほうがよかったのではないか。
否、それ以前に親でも保護者でもない私が口出しすべきことではない。
それこそが傲慢極まりない。

一度だけ、一緒に自転車でアリサと買い物に行ったことがある。
その時彼女は、ママ居たらこんな感じかなぁ?
と後ろからぎゅうと抱きついて来、
ひどく苦しかったが、同時に彼女は
「とっても幸せだな。」
と、甲高い声で笑っていた。
帰りにどうしても行きたいというので、
少し遠くの公園まで連れて行ったとき、
周りの子供たちに、「私のママなの。」と言い、
私はひどく狼狽していたことを思い出す。
それでも彼女は、幸せそうだった。
今思えば、私も残酷なことをしたものだ。
いつだって、優しさと残酷は表裏一体なのだ。
その時、私は引っぱたいてでも「ママぢゃないでしょ!」
と、言うべきだったのかもしれない。

アリサの顔つきは変わっていた。
確か、来年か再来年には小学校一年になる。
でもその顔は、まるで売れなくなったホステスのような
妙な色気さえ私に感じさせた。

「あなたのせいよ。」

それを、いいに来た気がしてならない。
そんな中で呑めない酒を呑んで、呂律が回らなくなったざらついた低い男の声はやけに現実味を帯びていて、寧ろ私のほうがその電話に救われた。
電話を切って、ボトルのまま呑んでいたDITAを地面に叩きつける。
出来ることなら、「即寝だよ。」と言って電話を切った
その男にもう一度電話をしたかったが、電話を手にとって止めたその姿が、ふっと今朝のアリサに似ている気がした。
アリサは「ママ」としか言えなかったのではなく、
「ママ」と言いたかったんだと思うと、
喜怒哀楽の全ての感情はなくなって、
ただ、今朝は全国各地、今年一番の冷え込みになったというニュースが、鮮明に瞼の裏に、映るのだ。


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[2006/12/05 01:20 ] | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0)
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