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陽介、と私。
一目惚れだった。
顔も見られないほど、それは憧れにも近かった。

初めて出会ったあの日、
陽介はギターを3Fから持ってきて、
「有紀ちゃん、これすっごい良い曲なんだよ」
そういって、弾き語りをしてくれた。

そこいらの歌手なんかよりずっとうまい彼の声は、
いつまで聞いても飽きることはなかった。




「……7時か、タクシー呼ぶな」

陽介の声が、どこか震えていた。

「私もう、あの頃みたいにブルジョアぢゃないのよ」

「俺が出すからいいんだよ」

そういって無理やり財布に入っているすべての紙幣を私の鞄に押し込んだ。



歌の途中、ギターを投げ出し私を抱きしめて一言、
「いつでも、この街に戻ってくればいい」といった。

窓から僅かに見える暁の空は、何よりも優しくて、
私はただ、泣くしかできなかった。



土曜日の朝を迎えた六本木の街が大好きだ。
欲と利権にまみれたこの街が、ほんの一瞬それらから解放され、
人がいる街だと認識させてくれる。
この街と過ごして6年が経ち、彼はもう若いとはいえなくなった。
けれど、その背中は昔よりずっと大きく、愛しい背中に変わりはなかった。

「もし、だめになったら私、またここに帰ってきてもいい?」

困ったら陽介に頼った。
六本木の遊び方を教えてくれたのも陽介だった。
この街にはいつも、陽介がいる。
私はいつも、この背中を追ってきたのだ。

「俺は、いつもここにいる」
そういって再度私を抱きしめ、私は静かに頷いてそのきつく抱きしめる腕をほどいた。
六本木で生まれ、六本木で育ち、六本木から離れられない男と別れた朝、
冬晴れの空は涙でかすみ、出会ったころ、真新しかった六本木ヒルズは歪んで見えた。

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[2009/12/19 18:19 ] | 未分類 | コメント(0) | トラックバック(0)
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